顧客VOICE:リアルの接点を活かしダウンロード数を10倍に。タウン情報誌「もんみや」のデジタル戦略とファンづくり
創業時からの事業であるタウン情報誌「もんみや」の出版事業をメインに、地方都市がお金を稼げるようにするためのEC事業や、自社で得たノウハウを販売するソリューション事業を行っている株式会社新朝プレス様。
「もんみや」は栃木県内の書店とコンビニ併せて1000箇所で販売しており、2014年からは無料アプリ「もんみやプラス」も提供開始されています。
本インタビューでは、自社だけでなく業界全体のデジタル推進も担っていらっしゃる、代表取締役副社長の高嶋 久夫様にお話を伺いました。
株式会社新朝プレス
代表取締役副社長 高嶋 久夫様
タウン情報誌「もんみや」
開発は中身が見えないからこそ、「その人を信頼できるか」で依頼を決める
─アイリッジを知ったきっかけは弊社渡辺(アイリッジ取締役 O2O事業グループ長)とのご縁とお聞きしていますが、選んでいただいた決め手は覚えていらっしゃいますか。
渡辺さんも私も楽天出身で、当時からお互い別々の部署のマーケティング担当としてナレッジ共有などもしていたのですが、地元が同じ栃木ということもあって、辞めてからも情報交換をしたり食事に行ったりしていました。
私自身、楽天時代を含め開発に携わっていたことがありますが、開発は中身を見ることが出来ないので、人を信用できるかでアウトプットが決まるところがあると思っているんですね。
そのため、新朝プレスに移りアプリ開発を検討し始めた時は、最初からアイリッジさんで行こうと思っていました。
Webでは出来なかったことをアプリで。目標はアプリ単体のマネタイズ
─そもそも、アプリを作ろうとなったきっかけはどんなものだったのでしょうか。
自社の得意なことを活かしながらデジタルでのサービス提供を考えなくてはという前提から、まずWebサービスを始めましたが、当時なかなか上手く行っていなかったんですね。
そんな中で、栃木県という特定の領域で限られたユーザーさんと密度高くコミュニケーションを取るほうが得意な我々には、オープン型のWebよりアプリのほうが向いているのではという仮説を立てました。
加えて、プッシュ通知を使ったり紙媒体と連動してみたりO2Oの領域に広げることでより使ってもらえるだろうという考えからアプリ開発に至りました。
─メディアアプリとしてアプリのマネタイズを目標にしていると伺いました。収益モデルやKPIはどのようなものになっているのでしょうか。
今後変えていこうとは思っていますが現在は広告モデルが収益の中心です。
主要なKPIはごく一般的で、まずダウンロード数。
また元が月刊誌なので、MAUをメインに、うちDAUがどれくらいというのを見ているのと、編集力が事業の根幹になるので、記事あたりのPVや滞在時間、1ユーザーあたりの記事閲覧件数など、滞在していただける理由を明確にしていくことを重視しています。
─どんな記事が人気ですか?
イベント情報や新店潜入ルポが人気ですね。
アプリ記事については本誌やSNSを通じて社外から特派員の方を募り、ネットワークを活用することでなるべくフレッシュな情報を集めてくるようにしています。
紙以外の収益源をどう広げるか。経験と人脈を活かし業界全体の課題に挑む
─アプリもWebも横展開できるよう設計されていて、奈良や愛媛でも別会社様での運用がされていますが、取り組みの経緯や連携状況など教えていただけますか。
我々は栃木でタウン誌をやっていますが、タウン情報全国ネットワークというものがあって、北は北海道から南は沖縄まで、全国に姉妹誌のようなものがあります。
各社同じような生業でやっていて、今後紙以外の収益源をどう広げていくかという課題も同様に抱えていることがわかっていたので、当初から横展開することを意識してものづくりをしたほうがいいと考えていました。
地元で編集職をずっとやってきた方が多い中で、私はたまたまITの世界に身を置いた経験があり、いまも渡辺さんのような方から最新情報を得ることが出来るので、タウン情報全国ネットワークのIT分科会副本部長としてデジタルビジネス関連の支援をさせていただいている状況です。
─そもそも、なぜIT業界から出版業界に移られたんでしょうか。
大学卒業後、実は一度地元で創業もしているんですが、自分を育ててくれた地元をより良くして未来に引き継いでいきたいという想いがもともと強くありました。
そのため、当初から最終的には帰るつもりで、事業の進め方やビジネスを学ぶために楽天や開発会社でキャリアを積んだという感じです。
新朝プレスは地元では「もんみやさん」の愛称で呼ばれ、地元の人々と非常に距離が近いことが強みなのですが、そろそろ帰ろうという時に御縁あって新朝プレスにお世話になる事になりました。
入社後はEC事業など、出版以外の事業をどう広げるかに取り組んでいます。
得意な「リアルの接点」を活かした仕掛けでデジタルでの認知を拡大
アイリッジ 取締役O2O事業グループ長の渡辺と
─もんみや様はプロスポーツのスポンサーなども積極的にされていますよね。
栃木には「5プロ」と呼ばれる5つのプロスポーツチームがあります。
Jリーグの栃木SC、Bリーグの栃木ブレックス、アイスホッケーの日光アイスバックス、プロサイクルロードレースチーム・宇都宮ブリッツェン、BCリーグ(野球)の栃木ゴールデンブレーブス。
この全部のメディアパートナーをやっているので、本誌で毎号プロスポーツ特集をやったり、リアルでもんみやプレゼンツの冠試合をやって読者さんをお招きしたり、試合後のアフターコートをお子さんに開放したりしています。
─冠試合ではアプリを活用したタイアップ企画などユニークな取り組みを実施されているとのことですが。
試合までのカウントダウンイベントとしてアプリ限定で選手のインタビュー記事を配信して当日への気分を盛り上げ、当日はアプリの記事を見せると選手の缶バッジをもらえるなど、ダウンロード促進にもつながるような取り組みを実施しています。
─読者層はどんな方々なんですか?
老若男女万遍なくいらっしゃるのですが、特に我々の中ではヤングファミリーとお呼びしている、小さいお子さんのいるご家族がメインです。
地元に対して意識が向き始めるのって30代くらいになってからのことが多いので、企画はファミリー層や30代以上の層を意識したものが多いですね。
アプリも同様に、若い人がすべてじゃないと考えています。
効果が見えるデジタルだからこその、新しいマネタイズの可能性
─位置情報を活用した取り組みとして、イベント会場でのGPSでの集客~計測、チェックインラリーなども実施されています。取り組みの詳細や結果はいかがでしたか。
高速道路の那須インターチェンジをターゲティングして、那須で降りそうな人たちに那須で使えるクーポンを送ったり、街なかにビーコンを設置して、ウォークラリーでコンプリートすると特典がもらえるような取り組みを実施しました。
那須は全国から人が訪れる観光地ですが、実は県内からの訪問も半分近くあるので、ユーザーの大半が宇都宮市民であるもんみやプラスアプリが県内の経済を回すのに役立てればと思っています。
あとは本誌で人気のラーメン特集が年1回あるのですが、特集との連動企画として、掲載店舗60店舗へのチェックインラリーでプレゼントがもらえる取り組みもやっています。
アプリだと紙だと見えなかった効果が測れるということで、この取り組みは企業様からの評判が非常に良いですね。
“愛される”ためにはファンへの労を惜しんではいけない
─全体を通しての成功体験や課題などお聞きできますか。
いまは良くなりましたが、当初つまずいた課題としてはアプリ記事のPVが伸びないというものがありました。
冒頭でもお伝えしたとおり、いかに読んでもらえるかが価値の源泉なのですが、ワンソースを二次利用三次利用しようとする業界の慣習というか、当時は特に深く考えることもなく本誌の情報をアプリに再掲載することが多かったんですね。
でも1記事あたりのPVが上がらず何でだろうと考えた時に、本誌とアプリでユーザーの多くが被っている、両方利用してくださっているファンの方が多いことがわかりました。
そこでアプリについては外部のもんみや特派員の方と連携してオリジナル記事をたくさん作る、いまのスタイルになりました。
自分たちの都合で作ってはいけない、労を惜しんではいけないということを学んだ機会でした。
ダウンロードの施策で言えば、イベントの時が一番伸びるのですが、大体平常時の10倍くらいは獲得できています。
もともと得意なリアルの接点を活かしてデジタルで認知を高める仕掛けづくりについては、我々ならではの接点の取り方で上手く回っていると思っています。
─現状アイリッジではどのようなサポートをさせていただいていますか。また、サポート内容への満足度やご要望などもお聞かせください。
開発だけでなくダウンロードの仕掛けの作り方やアプリ解析ツールの使い方など、デジタルマーケティングの領域でも日常的にお世話になっています。
より読んでもらう、活用してもらう状態を作るためにどうしたらいいか、アイリッジさんは実績をたくさん持っていてアプリの利活用の知識量が全然違うので、他での取り組みからの機能面や運用面などの知見をこれからもシェアしてもらえるとうれしいですね。
─最後に、今後の展望について教えてください。
アプリはユーザーとより近い距離でコミュニケーションが取れるプラットフォームであり、マネタイズの仕方を広告だけではなくもう少しパラレルで広げていきたいというのがあります。
既に実施しているクーポンもそうですが、地元商店やサービスとの連携など我々タウン誌だからこそ出来る取り組みはあると思うので、より生活者の方に使っていただけるサービスに出来たらと思っています。
─我々のサービスもpopinfoからFANSHIPに変わりデータソースを活用したマーケティングが幅広く出来るようになったので、さらなるご支援をさせていただけたらと思っています。今日はありがとうございました。
(取材・文:下坂乃奈子/写真:藁科英司)