ユーザーテストにおける「シナリオ」とは?構成要素や作成手順も解説

ユーザーテストは、プロダクトやサービスの使いやすさを検証し、改善点を見つけるための重要な手法です。その中心となるのが「シナリオ」です。
シナリオが適切に設計されていれば、テストの目的を的確に達成し、利用者の実際の行動や課題を明らかにできます。しかし、シナリオ作成の方法を誤ると、テスト結果が偏ったり有益な発見が得られなかったりするリスクもあります。
この記事では、ユーザーテストにおけるシナリオの役割や基本構成、作成手順などを詳しく紹介します。また、シナリオを作成するコツも解説しているので、ぜひチェックしてみてください。
ユーザーテストとは?

ユーザーテストとは、ユーザーに向けて商品・サービスを実際に体験してもらい、要件・設計に関する問題点や課題を見つけて改善するために、フィードバックを得るテストです。例えば新しいアプリをリリースしようと考えた際に、開発者だけでテストを行うのではなく、実際にユーザーに利用してもらうことで、開発者視点では気付かなかった問題にも対処しやすくなります。このユーザーテストから得たフィードバックを元に、よりユーザーにとって使いやすいWebサイト・アプリが完成します。
ただし、ユーザーテストは大量に人を集めて実施する定量評価とは違い、数字で表せられないものを評価するための定性評価になります。少ない人数であってもユーザーテストを実施したことによって、潜在的な問題を8割近く発見できたという事例もあります。
ユーザーテストの目的
ユーザーテストを実施する目的として、提供するプロダクトに対してユーザーはどのように利用するのか、また本当に使ってくれるのかを見極めることです。プロダクトがユーザーにとって魅力的かどうかを判断するために、リアルの意見に基づいて検証していきます。
また、ユーザーテストを行っていれば実際にプロダクトの提供がスタートした後で問題点やエラーの発覚を防ぐことも可能です。ユーザーテストで見つかった問題点や課題を修正してから提供することで、プロダクトや企業・ブランドの信頼性も高まるでしょう。その他、ユーザーの行動を観察・分析することで、どのような機能・サービスを求めているのかという需要を把握することもできます。
ユーザーテストが重要視される理由
ユーザーテストが重要視される理由に、「UX(ユーザーエクスペリエンス:サービスや商品を通じて得られる体験全体)の向上」が挙げられます。UXには、操作のしやすさや利便性だけでなく、利用時に感じる印象や満足感といった体験の質も含まれます。
ユーザーの消費行動は、かつての「モノ消費」や「コト消費」から、いまはその瞬間でしか得られない「トキ消費」へと移り変わっています。つまり、どれだけ機能が豊富でも、体験が乏しければユーザーはすぐに離脱してしまうのです。
そのため、開発の早い段階でユーザーテストを行い、実際の利用シーンで課題を洗い出して改善することが重要です。これによりUXを高められるだけでなく、リリース後の修正コストや失敗リスクを抑え、サービス全体の成功確率を高めることにつながります。
ユーザビリティテストとの違い
| 項目 | ユーザーテスト | ユーザビリティテスト |
|---|---|---|
| 目的 | プロダクト全体の使いやすさ・体験価値を検証する | 特定の機能や操作の使いやすさを評価する |
| 評価対象 | 全体の体験(UX) | 操作性・効率性(UI) |
| テスト範囲 | 広い(サービス全般の利用シーン) | 狭い(特定のタスクや操作) |
| 得られる知見 | 使い勝手・満足度・課題・改善点 | タスクの達成率・エラー数・効率性 |
| 手法 | 実際の利用シーンを想定したシナリオベース | 特定のタスクを指定し、操作を観察 |
| 活用場面 | 新規サービスの検証、リリース前の体験チェック | 既存機能の改善、UI要素の検証 |
ユーザーテストと似ている言葉に、「ユーザビリティテスト」があります。ユーザビリティテストとは、プロダクト内の特定のタスク・操作に対して、ユーザーがどれだけ効率的に実施できるかを評価するためのテストです。端的にいえば、ユーザーにとって使いやすいかどうかを調べるための検証になります。
ユーザーテストでも使いやすさについて観察・分析は行われるものの、使用感や全体的な体験、ユーザーはどこに価値を感じているのかなど、全体的に調査するのがポイントです。一方、ユーザビリティテストの場合は使いやすさに特化して調査を行うため、どこに価値があるのかなどは対象となりません。
ユーザビリティテストについては以下の記事でも解説していますので、参考にしてみてください。
ユーザーテストにおける「ユーザーシナリオ」とは?

ユーザーテストにおいて重要となってくるのが、「ユーザーシナリオ」です。ここで、ユーザーシナリオの役割や、カスタマージャーニーマップ・ユースケースとの違いについて解説します。
ユーザーシナリオの役割
ユーザーシナリオとは、製品・サービスにおける典型的なユーザー像が、どのように製品・サービスを見つけて、実際に利用していくのか、理想的なストーリーを描いたものになります。シナリオによってユーザー像の深堀りや、行動や心理の変化を見ることで、ユーザーに対する理解が深まり潜在的なニーズを掘り起こすことも可能です。
また、ユーザーの行動や心理が可視化されることで、チーム内で共通認識が持てるようになり、認識のズレによる手戻りなども減る可能性が高いです。
カスタマージャーニーマップとの違い
ユーザーシナリオは、ユーザー像の理想的なストーリーを描いたものになりますが、カスタマージャーニーマップとはどのような違いがあるのでしょうか?どちらもユーザーを深堀りするのに違いはありませんが、視点や活用シーン、表現方法が主に異なっています。
カスタマージャーニーマップでは、ユーザーの行動を網羅的かつ俯瞰で捉えることになります。一方、ユーザーシナリオはユーザーの視点に立ちながら一連の流れを作成します。
活用シーンにも違いがあり、例えばカスタマージャーニーマップならタッチポイントごとに施策立案を立てるのに役立ち、ユーザーシナリオはUI/UXデザインを改善させるために行います。さらに、カスタマージャーニーマップは図式で表現することも多いですが、ユーザーシナリオの場合は文章で作成するのが基本です。
カスタマージャーニーマップについては以下の記事でも解説していますので、参考にしてみてください。
ユースケースとの違い
ユースケースとは、システムとユーザーでどのようなやり取りが行われているかを可視化するためのものです。例えば、勤怠管理システムを導入した場合、従業員や承認者、管理者といった関係者(アクター)が、勤怠情報を入力したり申請を承認したりします。こうした具体的な行動を可視化したのがユースケースです。
ユースケースは、主にシステムやソフトウェアにおけるユーザーの操作とシステム・ソフトウェアの反応を示したものになります。実際にユーザーに体験してもらうユーザーテストとは異なるものの、プロセスの一部を詳細にしていると考えると、ユーザーテストにも含まれるといえるでしょう。
ここまで紹介した「ユーザーシナリオ」「カスタマージャーニーマップ」「ユースケース」は、いずれもユーザー理解や設計に役立ちますが、それぞれ視点や表現方法、活用シーンが異なります。違いを一目で整理できるよう、表にまとめました。
| 項目 | ユーザーシナリオ | カスタマージャーニーマップ | ユースケース |
|---|---|---|---|
| 視点 | ユーザー本人の体験を物語的に描写 | ユーザー行動を俯瞰的・網羅的に整理 | システムとユーザーのやり取りに着目 |
| 表現方法 | 文章(ストーリー形式) | 図式・フロー | 図式(UML等)+テキスト |
| 活用シーン | UI/UX改善、プロダクトの利用体験検討 | 施策立案、タッチポイント設計 | 機能要件定義、システム設計 |
ユーザーテストにおける「シナリオ」の構成要素

ユーザーテストのシナリオは、主に4つの構成要素から成り立っています。
- ペルソナ(誰が)
- スタート地点(どのようなきっかけで)
- ゴール地点(何を達成するために)
- プロセス(どう行動するか)
それぞれの構成要素について、詳しく説明しましょう。
ペルソナ|想定ユーザーの人物像を具体化する
ペルソナとは、ユーザーシナリオにおいて「誰が」を決めるための要素になります。ここでユーザーの人物像を示すことになりますが、「30代男性」といった曖昧なユーザー像ではなく、具体的な人物像を出していくことが重要となってきます。
ペルソナは、主に以下の情報を含んでいくことが大切です。
- デモグラフィック変数(年齢、居住地、職業、家族構成など)
- サイコグラフィック変数(趣味・志向、ライフスタイル、価値観など)
- 行動変数(ユーザーの利用状況、態度、意識、行動傾向など)
ペルソナの設定はシナリオにおいても特に重要な部分となります。さまざまな項目を詳細に設定し、まるで実在しているような人物像に仕上げることで、シナリオの作成もスムーズに進めることも可能です。
スタート地点|ユーザーの課題や行動のきっかけを設定する
設定したペルソナが今現在どのような状況にいるのかを決めるのが、スタート地点になります。利用する背景や感情を想定しつつ、ユーザーが製品・サービスと接するきっかけがどこになるのかを決めます。
スタート地点を決める際には、そもそもこのユーザーがどのようなことに悩んでいるのか、どのような問題点を持っているのかも設定することが大切です。この悩みや問題点などを解決することが行動の目的となり、きっかけにもなりやすいためです。
ゴール地点|ユーザーが最終的に達成したい目的を明確にする
スタート地点だけでなく、ゴール地点も設定する必要があります。ゴール地点はユーザーが最終的にどのようなことを達成したいのか、その目的を明確にすることが大切です。ゴールを決めると、その過程の中でどういったアクションを取るのか、どういった心境なのかを予測することもできます。
例えばフィットネスアプリのユーザーシナリオを考えた場合、まずは今日行うトレーニングを選ぶのにアプリを開くことがスタート地点、実際にトレーニングを行えて運動や食事の記録を取ることがゴール地点になります。
プロセス|スタートからゴールまでの行動と心理を可視化する
プロセスは、スタート地点からゴール地点までの道のりで、その中でユーザーはどのような行動を起こすのか、どのような心境にいるのかを見ることができます。一つひとつの行動を並べていくため、一連の流れを把握することも可能です。ユーザーシナリオを作成する中でも設定する内容が多く、プロセスの作成にはある程度の時間がかかってきます。
ユーザーテストにおける「シナリオ」の作成手順

実際にユーザーテストのシナリオを作成するには、以下の手順を踏むことになります。
- ペルソナとテストの目的を明確にする
- 行動シナリオを時系列で書き出す
- 各行動に対するタスクと期待値を設定する
- テスト形式と進行手順を設計する
- チームでレビューしブラッシュアップする
各手順を詳しく解説していきましょう。
Step1. ペルソナとテストの目的を明確にする
シナリオの作成では、まずペルソナとテストの目的を明確にするところから始まります。製品・サービスのターゲット像をより具体的な人物像に落とし込んでいきます。製品・サービスのターゲット像と異なるペルソナを一から作成することも可能ですが、人物が変わればシナリオも変わってくるので注意が必要です。
ペルソナに加えて、ユーザーテストの目的も明確にしておきます。このユーザーテストを通じて何を達成したいのかを決めることで、シナリオの作成範囲も明確になり、スムーズなシナリオの作成につながります。テストの目的まで決まったら、スタート地点とゴール地点も設定してください。
Step2. 行動シナリオを時系列で書き出す
ペルソナやテストの目的、スタート地点・ゴール地点が決まったら、次にスタートとゴールの間に位置する行動シナリオを書き出していきます。例えば旅館・ホテルの予約サイトを利用するユーザーなら、予約サイトに訪れてから実際にホテルを予約するまでに、以下の行動シナリオが予測できます。
- 予約したいホテルの条件を絞り込んで検索する
- 複数のホテルから比較・検討をする
- 比較・検討した結果、希望と合うホテルを見つけて予約する
Step3. 各行動に対するタスクと期待値を設定する
行動シナリオを時系列順に並べたら、次に各行動に対するタスクと期待値を設定していきます。行動シナリオはあくまで大まかな行動を示すものであり、実際にはユーザーがより細かなアクション・タスクを行っていることになります。上記で挙げた各行動をより具体的なものにするために、タスクを細かい部分まで書き出してみてください。
また、各行動の期待値も決めます。期待値はその行動を取った結果、どのような結果になるのかを表すものです。期待値を決めるときは曖昧なものではなく、より具体的に書くことが重要です。
Step4. テスト形式と進行手順を設計する
各行動に対するタスクを書き出し、期待値を設定したら、テスト形式と進行手順の設計を行います。ユーザーテストでよく活用されている形式として、ベータテストやフォーカスグループ、A/Bテストなどが挙げられます。
- ベータテスト:完成に近い製品を提供し、フィードバックを確認する
- フォーカスグループ:複数のユーザーを集めてUI機能に関する課題・考慮点を議論してもらう
- A/Bテスト:ユーザーに2種類を提示し、どちらが良いか選択してもらう
テスト形式が決まったら、どのような手順でテストを進行するか設計します。ユーザーテストを実施する際には関係者への説明や被験者となるユーザーの選定、スケジュールの策定、テスト環境の整備なども必要です。テストを行うプロセスを設計し、スムーズにユーザーテストが実施できるようにしておきましょう。
Step5. チームでレビューしブラッシュアップする
シナリオが完成したら、チーム全体でレビューしブラッシュアップを図ります。1人で設計しても視点が抜けていたり、行動・タスクなどを十分に書き出せていなかったりする場合もあります。そのため、チーム全体でシナリオをレビューして改善することを繰り返すことで、より良いシナリオを完成させられるでしょう。
ユーザーテストにおける「シナリオ」作成のコツ

ユーザーテストのシナリオを作成する際は、以下のコツを押さえることも大切です。ここで、ユーザーテストにおけるシナリオ作成のコツを解説します。
ユーザーの行動を時系列で整理する
ユーザーの行動は時系列順に整理したほうがわかりやすくなります。シナリオはユーザーの視点に立ちながら行動・心理を可視化させ、潜在的なニーズまで掘り起こすことが目的です。行動や心理を可視化できたとしても、それが時系列順になっていなければ行動や心理が変化する過程がわからなくなってしまいます。
ただし、項目によっては同列になってしまうケースもあります。例えばECサイトで欲しい商品を探しているユーザーが、検索窓から探すパターンとカテゴリから探すパターンでは、時系列で見ると同じ場所に位置することになります。また、カテゴリから探そうとしたユーザーが該当するカテゴリを見つけられず、仕方なく検索窓から探すパターンもあるでしょう。こうしたユーザーの行動パターンや変容なども、すべてシナリオに書き出すことが大切です。
テスト観点を明確にし、目的と紐づける
テスト観点とは、特定の機能に対してどのテストが有効かを考える観点を指します。いくらユーザーテストにおけるシナリオを作成できても、テストの中で確認したほうが良いポイントを見逃していれば意味がありません。
この見逃しを防ぐためにもテスト観点を明確にし、目的と紐づけることで、テストの効果を高めることができます。
シナリオは詳細すぎず柔軟性を持たせる
シナリオを作成するとき、どうしても詳細につくろうとしすぎてしまうケースもあります。しかし、シナリオは詳細すぎず柔軟性を持たせることが大切です。柔軟性を持たせることによって、ユーザーが予測できない行動を取ったり、異常な操作を行ったりした場合でも、対処しやすくなります。
実際にリリースするとなると、色んなユーザーが使うことになるため、実際のリリース後に近い状態でテストを行うこともできます。そのため、シナリオは柔軟性を持たせるようにしておきましょう。
ユーザー視点で違和感のない流れにする
シナリオを作成する際は、必ずユーザー視点に立ち、行動プロセスを違和感のない流れにすることが大切です。テストを行うことを目的とするようなタスクや順序にしてしまうと、本来ユーザーが取る行動や実際の利用シーンとかけ離れてしまう恐れがあります。
違和感のない流れにするためには、ユーザーの普段の行動や課題を再現する必要があります。必要に応じてユーザーから意見を聞いたり、アンケート調査を実施したりするのも良いでしょう。
チーム内での共有・レビューを必ず行う
シナリオは1人で作成することも可能ですが、作成者の思考に偏ってしまう可能性が高いです。そのため、完成したシナリオは必ずチーム内で共有し、レビューを受けるようにしましょう。複数の人からレビューをもらうことで、抜け漏れや不自然な部分を修正できます。
また、関係者全員がシナリオについて把握しておくと、実際のテストもスムーズに行ったり、観察すべきポイントが明確になったりします。こうした理由から、シナリオが完成したらチーム内で共有するようにしましょう。
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まとめ:シナリオを活用して、ユーザーテストの質を高めよう

ユーザーテストの質を高めるためにも、シナリオを作成することが重要です。シナリオの作成によりテストの質も向上すれば、プロダクトのUX向上も期待できます。今回紹介したポイントを押さえつつ、効果的なシナリオを作成しましょう。
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