顧客VOICE:地方銀行が挑む、地域決済のその先へ。肥後銀行が創り出す「くまモン!Pay」の統合マーケティング戦略

写真左から、アイリッジ 内田、株式会社肥後銀行 デジタルマーケティング部 ペイメント事業推進室 平賀 美隆様、前田 雄大様、濵﨑 健太様、アイリッジ 冨吉、小野、Qoil 木ノ根、馬場
2025年に創立100周年という大きな節目を迎えた肥後銀行。熊本県民の生活を支え続けてきた同行が次を見据えて放った一手が、地域決済アプリ「くまモン!Pay」です。
単なる「決済手段のデジタル化」に留まらず、地域経済の活性化と、「熊本愛」を循環させるプラットフォームを目指すこのプロジェクト。アイリッジのプロデュース部とグループ会社のQoilがマーケティングのご支援をさせていただきました。
本インタビューでは、くまモン!Payのマーケティングに関するお話を中心に、プロジェクトを推進されたデジタルマーケティング部 ペイメント事業推進室の濵﨑様と前田様にお話を伺いました。
くまモン!Payで熊本県に持続可能な決済手段を広める
──まずは、くまモン!Payを推進する「ペイメント事業推進室」の役割について教えてください

濵﨑様:肥後銀行は1925年の創立以来、地域に根差した金融機関として、預金・融資・為替という銀行の三大業務を軸に幅広いサービスを提供してきました。ペイメント事業推進室は現在約15名の体制で、「地域社会に持続可能な決済手段を提供する」という役割を担っています。
具体的にはくまモン!Payの企画・運営・推進や、地域の交通系ICカードである「くまモンのICカード」の運営、外部決済サービスと当行口座の接続管理など、決済・支払いに関するあらゆる業務を取りまとめています。
──では、本プロジェクトの中心であるくまモン!Payの特徴について、簡単にご紹介お願いします

前田様:くまモン!Payは、「どこでも、誰でも、簡単に」というコンセプトのもと開発されたプリペイド型の決済アプリです。まずはVisaとiDのタッチ決済をスタートしています。
熊本県内では、同時期に路線バスや市内を走る路面電車でタッチ決済が導入されたので、それに合わせてリリースさせていただきました。以前から提供している「くまモンのICカード」は主にバスでご利用いただいていたのですが、お出かけから買い物までをスマートフォン一つで完結できるという体験が実現できました。
アプリ開発の先にあるゴールを目指して
──アイリッジメンバーから、今回のプロジェクトの経緯を教えてください
冨吉(アイリッジ):最初はアプリに組み込む開発支援ツール「APPBOX(アップボックス)」のご提案からでした。管理画面から行員さん自らがプッシュ通知やクーポンを柔軟に運用できるUIを評価いただき、くまモン!Payに採用いただいているという状況です。
その後、アイリッジグループでできることを幅広くご提案させていただいた際に、さまざまな過去の実績を含め、コミュニケーション施策やアプリコンセプトの再設計などのお話をさせていただいたところで、ご興味を持っていただき、ご採用いただいたという流れです。
内田(アイリッジ):アイリッジは、いわゆる開発をするとかAPPBOXでツールを提供するだけでなく、その後も一緒にやっていきたいというスタンスですね。なので、一緒にサービスを作らせていただきつつ、作った後にどうやってユーザーに知っていただき使っていただくかというところまで含めて、ぜひ一緒に進めさせていただけないかという話をさせていただきました。
その際に、プロデュース部やQoil(コイル)のメンバーと一緒にお話をさせていただいたというのが統合マーケティングのご支援のきっかけですね。

──そのような提案をさせていただいた中で、アイリッジを選んでいただいた理由はありますか?
濵﨑様:クーポン機能をはじめ、アプリのいろんな機能を提供してくれる会社でもあったので、プロモーションもそれに紐づいたところで展開ができるんじゃないかと感じたところはアイリッジさんの強みのひとつかなと思ってスタートさせていただいたところです。
プロジェクトを通して、知識が体系的な実体験へと深化
──当時抱えていた課題感のようなものはありますか?

濵﨑様:一般的に銀行が作るアプリは、通帳の残高確認などがメイン機能であり、銀行の名前で発信すればお客様に使っていただけるのが当たり前でした。そのため、プロモーションに力を入れたことがありませんでした。
くまモン!Payに関しては、他の銀行ともつなげた熊本県民の誰もが使えるサービスとしてスタートしているため、肥後銀行がやっていることを前面に出さず、認知をしてもらうところが非常に苦労しました。
そのため、アイリッジさんには、記者会見のご相談や資料作成などもお手伝いいただきながら、まずはいろいろな形で認知を取っていく、最初に大きな花火を上げていくところまでをサポートいただきました。
──アイリッジがご支援させていただく中で、皆様が気付きを得られたことがあれば教えてください

濵﨑様:たくさんありましたね。先ほどお話ししたように、銀行のサービスはあって当たり前であり、これまではプロダクトアウトのものが大半だったと思っています。そこに対して、違った目線から消費者に届けるために必要なものを探すプロセスは、本当にたくさん気づきがあったと感じています。
私たちも「マーケティングとは」とか、「さまざまなマーケティングのモデル」があるということは知っていました。ただ、実際にそれをどう落とし込んで進めていくのかを見せていただいて、体系化されていくことで、担当者が何をやるべきかが明確でしたし、知識が実体験として落とし込まれていきました。
勉強だけで身につくものと実際にやってみて身につくことはこんなにも違うんだということに気づけましたし、このやり方や考え方は他のプロジェクトにも使えそうだなと感じています。
「くまもとが、すきだけん。」タグラインの誕生
──ブランドの核となる「くまもとが、すきだけん。」というタグラインは、どうやって生まれたのでしょうか

濵﨑様:ここが一番大変でした。議論を始めてから決まるまでに2ヶ月はかかったんじゃないでしょうか。
まず、くまモン!Payの推しポイントは何なのかをアイリッジさん、Qoilさんとも一緒に考えさせていただきました。機能だけを考えれば他の決済サービスも同じようなことができるはずです。しかし、熊本県内で使って欲しいという想いのあるアプリであれば、情緒的な価値が大事なんじゃないかというポイントが見えてきました。情緒的価値は何かといえば、くまモン!Payが熊本で当たり前に使われる状態にあり、熊本愛で経済が回っている状態なんじゃないかというような話も議論の中で定まってきました。
その中で、今後サービス展開を進めていくにあたって、「タグラインというしっかりとした軸が必要ですよ」ということを教えていただきながら、じゃあ、まずはそれを作りましょうとなったのがタグライン策定の流れです。
私たちも社内で千本ノックどころではないぐらいのノックを繰り返して考えました。そもそも何のためにやってるんだっけ、熊本のためだよねと。
そのように何度も深堀りする中で、熊本弁も使いながら、ひらがなにして、誰でもわかるワードにしていくという過程を経て、自然と「くまもとが、すきだけん。」という言葉に辿り着きました。
変わりゆく状況にも長期的な目線で対応
──プロジェクトを進めるうえで、特に重要視した点や工夫が必要だった部分はありましたか?

濵﨑様:タグラインを定めたことはもちろんですが、運用面では「リリースのフェーズ分け」にどう対応するかが大きな課題でした。当初はQRコード決済まで実装した状態でリリースする予定でしたが、まずはタッチ決済からという2段階のリリースに変更になりました。プロモーションとしては、これがかなりのネックでした。当初の計画から少しずつずれていく中で、訴求のタイミングをどうするか、段階を踏んで計画を立てていただきました。
アイリッジのみなさんには、さまざまな事情で変わっていく状況に寄り添いながら、常に「長期的な目線」で計画を出していただきました。私たちも何度もすり合わせをすることができたので、単発ではなく長期的な目線で対応いただくということが一番重要だったと感じています。
前田様:開発面では、イベントのトラッキングに何が必要で、実際にどうやるのかなど、設計や実装について支援していただきました。ご支援いただくことで「こういう施策を打ちたいから、この箇所の数値を計測する」という逆算の設計ができました。
多分、私の目線で作ろうとしたらとてつもない時間をかけて的外れなものが出てきていたんじゃないかなと思います。
小野(アイリッジ):我々がご提供する統合マーケティングの中にアプリマーケティング設計という支援でグロースマーケティングの部署も入らせていただいたので、アプリ内でどうコミュニケーションするかという部分に関しては、シナリオの作成や参考のKPIも出させていただいたところですね。

――アイリッジグループとしては、このプロジェクトで大切にしたポイントはありますか?
木ノ根(Qoil):先ほどのタグライン策定に関連してくるのですが、くまモン!Payを通して成し遂げたいゴールを「どのようにしてユーザーの利便性や使う理由とブリッジさせるか」という部分が重要だと感じました。
プロジェクトの北極星を定めるにあたって理念などをお聞きしたのですが、デジタル決済の比率を上げていくこと、地方銀行としての役割、自治体・地域の加盟店など、そのようなことを踏まえて熊本の経済を盛り上げていくという使命を持ってやられています。
最初の3ヶ月はそれを消費者がどう受け取るのかという視点からいろいろな質問をさせていただき、「使命とどうブリッジするか」を主軸に進めさせていただいたくらい重要で、私自身も一番考えたポイントでした。
小野(アイリッジ):そもそもプロジェクトをスタートするにあたって、我々プロデュース部は何をやれる部署で、どんな実績があるかということをあまり示せてなかった部分もあったと思います。なのでまずは、どう丁寧にコミュニケーションができるかを考え、毎週やりましょうねとか、最初は絶対に対面で2時間やりましょうねとか、コミュニケーションの部分をしっかりやるというところも大事にさせていただきました。
あとは、アイリッジが東京の会社なので「熊本を知らないじゃん」というところが一緒にマーケティングをやるうえでは一番引っかかるだろうなと思っていました。そのため、熊本を理解するという部分はアイリッジ、Qoilとも大事にした部分ではあったかなと思います。
「肥後銀行っぽくない」という評価。密なコミュニケーションで生まれたクリエイティブ
──出来上がったクリエイティブの反響はいかがですか?

濵﨑様:「いい意味で肥後銀行っぽくないよね」という評価をたくさんいただきました。これまでは依頼先が数社で固定されており、クリエイティブを見るとどこにお願いしたかがわかる状態でした。くまモン!Payはモデルさんを5名起用し、訴求も変えながら多岐にわたるクリエイティブを作っていただいたのもあり、そういった声をもらえたのかなと思います。
私たちの支店は、道路に面したポスターの掲示場所が多く、歩行者からもよく見えます。くまモン!Payのクリエイティブが並んでいるところを歩いてみると明るい印象を受けますし、このようなクリエイティブを並べることができてよかったなと感じています。
──アイリッジ側でこだわった部分はありますか?

馬場(Qoil):熊本県民の皆さんが当たり前にくまモン!Payを使うという世界線を作るとなると「くまモン!Payを中心に仲間が増えていく世界線」をプロモーションを通して実現していく必要があると考えました。そこでくまモンの存在を一つのモチーフとして捉えて表現に組み込みました。
動画やポスターなどでは、くまモン!Payを使う瞬間にほっぺにポッとあかりが灯って、そのあかりが広がっていくことでくまモン!Payが広がっていくことを表現しました。ほっぺに灯ったあかりが、商店街から熊本市、熊本県と、どんどん広がっていくようなイメージが描けるといいなというのがクリエイティブに込めたコンセプトです。
──アイリッジ側の「進め方」で印象に残っていることはありますか?
濵﨑様: 先ほども触れましたが、本当に何度も足を運んでいただいたのが印象的です。来られるときは多くの方に来ていただき、懇親会もさせていただいて、今までにご一緒した会社さんよりも本当に密にコミュニケーションを取らせていただいたというのが率直な感想です。

そうすると会話もスムーズになり、お互いの意思疎通が円滑になったと感じています。私たちに知識がない中での質問に対しても丁寧に教えていただき、さまざまな解決策を提案いただけたことは、伴走支援として本当に素晴らしいと感じました。
また、クリエイティブ制作においては、浅野さん(Qoilメンバー)にも熊本に足繁く来ていただき、一つ一つへのこだわりが本当に職人さんのようで、その真摯な仕事への向き合い方に感銘を受けました。その様子を見ていると、安心してすべてを任せられる、間違いないなという確信を得ました。
小野(アイリッジ):浅野のこだわりとして、今回はカメラマンさんやスタイリストさんなど、スタッフはすべて熊本の方にしたというのもありましたね。我々が知らない土地だからこそ、熊本の方々でスタッフィングできたことは、大きな部分かなと思います。熊本の人たちで作った、熊本のクリエイティブができましたよね。

三方よしのサービスで熊本の発展に貢献。そして全国へ
──今後の展望を教えてください

濵﨑様:2026年3月にはQRコード決済、8月にはデジタル商品券のリリースを予定しています。Visa / iDのタッチ決済は便利ですが、加盟店以外では使えません。今回のリリースによって、くまモン!Payが本格的なスタートに立てるのかなと思っています。
人口減少や人手不足など、熊本が抱えている課題がある中で、くまモン!Payが地域の決済プラットフォームとして中心になっていくことで、地域のお役に立つことができ、キャッシュレス比率の向上も実現していけるのではないかと考えています。
前田様:今後も必要とされる機能を実装していくことで事業者、加盟店、利用者と、みなさんにメリットがあるサービスに発展させ、データとマネーの地域内還流によるらせん状の地域経済発展を目指して運営を進めていきます。

──今後もアイリッジに期待することがあれば教えてください
濵﨑様:3月からはWeb広告を含めた本格展開が始まります。ようやく戦略の両輪が回り出しますので、今後も多様な展開においてお力添えをいただきたいと考えています。
内田(アイリッジ):まずは熊本県内で広げていくところをアイリッジでもしっかりサポートさせていただきます。あとは御行と同じようなことで悩んでらっしゃる他の地域の方々からお問い合わせが入っていたという話もありますよね。くまモン!Payのモデルを成功させられれば、困っている他の地域にも一緒に広げていくような動きができたらいいですね。
濵﨑様:そうですね。交通のところで困っているところや、地域のキャッシュレス決済をやってみたがうまくいっていない自治体など、そういうお声をよく聞きます。そういったところに対してもくまモン!Payが何かひとつ手助けになれればと思いますし、その中でやっぱり御社のお力を借りるところがまた出てくるのかなと思っています。
──本日は貴重なお話をありがとうございました
くまモン!PayのAPPBOX導入のお話を以下のページに掲載しております。
ぜひ、こちらもご覧ください。
顧客VOICE:既存資産を活かした機能拡張を実現!熊本に愛される地域決済アプリ「くまモン!Pay」
取材・文・撮影:澤田おさむ
