トラッキングとは?代表的な手法や計測方法、規制強化に対する対応策も解説
ユーザーが魅力に感じやすいWebサイトの構築やWebマーケティングを実施する上で欠かせないのが「トラッキング」です。さまざまな業界で活用されている技術ですが、近年では個人情報保護やサイバーリスクの脅威などによって法規制に踏み切っている国も増えています。しかし、ユーザーの興味関心や属性などのデータを把握するためには有効な手段です。
そこで今回は、ビジネスシーンで用いられているトラッキングについて解説すると共に、トラッキングの代表的な手法や計測方法、実施するメリットやデメリットについて解説していきます。トラッキングを基にしたマーケティングを検討している企業担当者の方やトラッキングについて深く知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
ビジネスシーンで用いられる「トラッキング」とは?
インターネット上のユーザーの行動を追跡してデータ収集・分析をする手法をトラッキングといいます。スマホやネット環境が普及したことで、トラッキングの技術が広く知れ渡るようになり、さまざまな業界で活用されている技術です。対象となる主な情報としては以下の通りです。
- Webサイトの閲覧履歴
- 検索キーワード
- 製品、サービスページ
- 購買行動
- 資料請求 など
上記のようなデータを分析することで、ユーザーの行動パターンが理解しやすくなり、効果的なマーケティング戦略の立案に役立ちます。例えば、Webマーケティング業界であれば、ユーザーがどこを介してWebサイトに訪問してきたのかを知れるだけではなく、どの項目をどの程度の時間閲覧していたのかを継続的に収集できる仕組みです。
また、製品の紹介ページや事例など、どういったページを見て製品の購入や資料請求といったコンバージョンに結び付いたのかを追跡することも可能です。コンバージョンにつながらなかった場合でも、どの広告から訪れたユーザーがコンバージョンに結びやすく、コンバージョンにいたっていないユーザーはどこのページで離脱しているのかについても調査できるため、サイト内の問題を分析するためにも役立ちます。
トラッキングの代表的な手法とは?
トラッキングを行う手法はさまざまな種類があります。ここでは、その中でも代表的なトラッキング手法をご紹介していくので、活用時の参考にしてみてください。
ファーストパーティCookie
トラッキングの中でも多く利用されているのが「Cookie」と呼ばれる手法です。発行元によって2種類に分かれており、その1つがファーストパーティCookieです。ファーストパーティCookieは、ユーザーが訪問したサイトのドメインによって直接発行されたCookieを指します。代表的な活用シーンは以下の通りです。
- ユーザー情報の入力フォーム画面
- リターゲティングといったWeb広告
- アクセス解析、効果測定
- ログイン画面に自動入力されるパスワード情報
- ECサイトのカート情報
ファーストパーティCookieは、Webサイト上でユーザーの利便性を高める目的として活用される手法です。例えば、サーバー上で作成したログイン情報が保存されるので、サイトを訪れるたびにパスワードやIDといった情報を入力する必要がなくなるため、使い勝手が良くなります。ただし、ドメイン単位での発行なので、複数のサイトにまたがるトラッキングはできません。多用するとサイト負荷が大きくなる点にも注意が必要です。
サードパーティーCookie
サードパーティーCookieは、訪問したWebサイト以外から発行されたCookieを指します。複数のサイトをまたいで活用できる点が大きな特徴です。主な活用シーンは以下の通りです。
- Webサイトのアクセス解析
- 配信したWeb広告の効果測定
- リターゲティング広告の配信
- アフィリエイト広告の識別
- アトリビューション分析 など
例えば、健康食品のサイトを閲覧した後に他のサイトでも健康食品に関する広告が多く表示されるといった経験がある方もいるはずです。これは、サードパーティーCookieを用いたリターゲティング広告となります。自社サイトに訪れたユーザーに広告サーバーからIDを付与することで別のサイトでも広告が表示されるのです。
興味や関心に沿った広告なので、出稿している側にとってはコンバージョンにつながる可能性があるためメリットが大きいです。しかし、個人の行動データを利用しているため、ユーザーによっては不快感を抱くケースもあります。このことから、近年ではサードパーティーCookieを規制する動きが進んでいます。
広告識別子
広告IDとも呼ばれている手法で、アプリ内の広告においてモバイル端末を識別するためのIDとなります。スマートフォンやタブレットといった端末ごとに1つのIDが割り振られる仕組みです。広告識別子には2つの種類があり、Android端末で利用されるのが「AAID」、iPhoneといったiOSで使用されるのが「IDFA」です。
閲覧履歴や行動履歴といったデータを収集して識別し、その情報を基にしたターゲティング広告などに利用されています。同じ端末であればアプリをまたいで活用できますが、ユーザーは設定から識別子のリセットや追跡の制限をすることができます。
ブラウザフィンガープリント
ブラウザやデバイスの特徴を分析してユーザーを識別する技術をブラウザフィンガープリントといいます。インストールされているフォントやプラグイン、画像解像度などを組み合わせてユーザーを特定する仕組みです。ブラウザはユーザーごとに異なるので、不正アクセスの防止やターゲティング広告などに活用されます。
Cookieと比較するとユーザー識別の精度が劣る点がデメリットですが、ユーザーの同意がなくてもブラウザ情報を取得できる点がメリットです。Cookieに代わる手法として注目されている方法です。
SensorID
スマートフォンのセンサー情報からデータを取得できる手法がSensorIDです。ケンブリッジ大学の研究者が発表した比較的新しいトラッキングの手法です。主に以下のような情報を収集してユーザーを追跡していきます。
- ジャイロスコープ
- 加速度センサー
- 磁力センサー
異なるアプリ間やサイト間でも行動を把握でき、ユーザーによって無効化や変更が簡単にはできないため、持続的な追跡が可能な手法です。
スマートフォンアプリ
スマートフォンやタブレットでアプリを利用する際に、連絡先や位置情報、他のアプリへのアクセスなどを通じてユーザーの行動を追跡する手法です。アプリでのスマートフォンアプリでトラッキングを実施するためには、ユーザーがアプリを使用する際に情報の利用やアプリへのアクセスを許可しなければ取得できません。
トラッキングできた場合は、ユーザーが購入した製品や閲覧情報、位置情報などから興味関心を推測して、広告を表示することが可能です。ただし、データブローカーによる利用の可能性を危惧するといったデメリットを感じて許可しないユーザーも多くいます。
トラッキングの計測方法
トラッキングの計測方法には以下の2種類があります。
- ダイレクト計測
- リダイレクト計測
それぞれについて解説していくので、どちらを選択すべきなのか悩んでいる方は特徴を理解するためにも役立ててみてください。
ダイレクト計測
自社が保有しているWebサイト上に計測タグを直接設置する方法がダイレクト計測です。ユーザーがWebサイトにアクセスすることでタグが発動してアクセス数やページの離脱の有無、コンバージョン数など、さまざまなデータの計測を実施します。トラッキング用のサーバーが必要ないので、サーバーの不具合によって追跡の停止や不具合が起きる心配がありません。サーバーを導入するための費用がかからない点もメリットです。
ただし、データを計測するためにもすべてのページにタグを設置しなければいけないため、運用時に手間がかかる点がデメリットとなります。タグが反応した時にカウントする方式なので、クリックとの間にラグが生じてしまう点やブラウザの設定によっては機能しない点もデメリットです。メリットとデメリット両方を理解することが大切です。
リダイレクト計測
トラッキングサーバーを経由してカウントを行う方法がリダイレクト計測です。計測タグの読み込みからカウントまでのラグが出にくいので精度が高い点がメリットです。また、リダイレクトの際にCookieを付与できるのでブラウザによる制限も受けにくい特徴があります。ページに計測タグを埋め込まないので手間もかかりません。
ただし、リダイレクト用にサーバーを利用するので各サービスの利用料金が必要となる点がデメリットです。トラッキング用サーバーに不具合が起きた際には計測が難しくなる点にも注意が必要です。
トラッキングを実施するメリットとは?
トラッキングによって企業側とユーザー側が得られるメリットを解説していきます。
企業側のメリット
企業側にもたらすメリットは、マーケティングと広告の2種類です。ユーザーの属性情報や行動履歴といったデータを収集できるので、マーケティング戦略の立案に役立ちます。例えば、自社サイトを所有している場合は、コンバージョンにつながったユーザーがどういった行動をしていたのかを把握することができます。離脱されやすいページを知ることができれば、Webページの改善にもつながります。
また、Web広告においてはユーザーの興味関心に基づいたターゲティング広告を行えるので、より効果的な広告配信が可能です。もし、ユーザー情報がないまま広告を配信すれば、興味のない広告が表示されるのでコンバージョン率も低くなってしまいます。このように、トラッキングの活用によって広告費用対効果をアップさせたり、潜在顧客の獲得につなげたりとマーケティングに役立つ効果が得られる点が企業側のメリットです。
ユーザー側のメリット
トラッキングにはユーザー側に与えるメリットもあります。その1つがWebサイトの利便性アップです。トラッキングによってログイン情報が記憶されれば、自動ログインが可能になるので2度目からの利用時に自分でログイン情報を入力する手間を省けます。利用時にIDやパスワードを入力する必要がなければ、ログインもしやすくなるのでサイトがより使いやすくなるはずです。
また、興味関心のある広告やサービスが表示されやすくなる点もメリットです。例えば、「化粧水 おすすめ」と検索した場合、化粧水に興味関心があるというユーザー情報が記録されます。そのため、別のWebサイトを閲覧した際に化粧水に関する広告が表示されるので、自分で検索をしなくても気になる商品を見つけやすくなります。また、オンラインショッピングのサイトでは、閲覧履歴や購入履歴を基にしておすすめ商品が表示されるので、欲しい商品を探す手間を省くことが可能です。
トラッキングを実施するデメリットとは?
トラッキングにはメリットがある一方でデメリットも存在します。企業側とユーザー側に分けて解説していきましょう。
企業側のデメリット
ユーザー情報がデータ化されるのでトラッキング情報を盗まれた場合は、住所やクレジットカード情報といった個人情報が漏洩してしまいます。情報漏洩は企業にとって信用問題に関わる事案です。セキュリティリスクがあることを理解した上で、事前に対策を行うことが重要です。
また、ユーザーの興味関心の高い広告を表示できる点がトラッキングの魅力ですが、何度も同じ広告が表示されれば企業に対してマイナスなイメージを抱いてしまうユーザーもいます。広告とわかった時点で嫌悪感を抱かれる可能性もあるので、興味を抱いてもらうためにも魅力的な広告を制作することが大切です。
規制への対応にも注意しなければいけません。トラッキングはユーザーのプライバシーに関する懸念から世界各国で規制が強化され始めています。カリフォルニア州消費者プライバシー法やEUの一般データ保護規則などがその一例です。規制に違反すれば罰則や企業イメージの低下といったリスクが生まれます。信頼を得るための取り組みも必要となるため、利用方針の策定やユーザーに対しての明確な説明などを的確に実施しなければいけません。
ユーザー側のデメリット
トラッキングにおけるユーザー側のデメリットはプライバシーに関わる点です。トラッキングの利用によって、自分の属性情報や行動履歴が取集、分析されてしまいます。位置情報や閲覧履歴、検索キーワードなどが含まれ、第三者に提供されれば不正利用される可能性があるだけではなく、情報漏洩の心配もあります。
オンラインショッピングサイトでは、間違えてタップしたものまでもおすすめとして表示される可能性があるため、興味のない商品が上位表示されて利用しにくくなる点にも注意が必要です。
トラッキング規制強化の流れ
前述したように、Cookieによるトラッキングはリスクもあるので規制が強まっています。特に問題視されているのがサードパーティーCookieです。意思に関係なくユーザー情報が利用されるのでプライバシーや個人情報保護の観点から規制が進んでいます。
2020年にはアメリカで「カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)」が施行され、Appleでは「ITP2.3」によってサードパーティーCookieが完全にブロックされました。2022年には、Mozilla社がFirefoxブラウザで「包括的Cookie保護」をデフォルトで有効にすることを発表し、Google社でも2025年の初めからchromeブラウザでのサードパーティーCookieを段階的に廃止する予定となっていました。しかし、これに関しては2024年7月に廃止を撤回する旨を発表しています。
日本においては、2022年に「改正個人情報保護法」によってCookieが個人関連情報と定義され、Cookie利用時に許可を求めることが義務付けられるようになりました。
トラッキング規制強化への対応策とは?
マーケティングにおいてはトラッキングの活用が重要となっています。しかし、規制が強まっていることで、企業は対応策を考える必要があります。ここでは、規制に対応するための具体的な方法を解説していきます。
ファーストパーティデータを活用する
サードパーティーCookieに対する規制が強化されているので、ファーストパーティCookieへの移行を考えてみましょう。ファーストパーティCookieは、ドメイン単位での発行なのでサイトをまたいだトラッキングはできません。しかし、同じサイト内での活用は可能です。サードパーティーCookieと比べてもきめ細かなユーザー分析が可能なので、マーケティングにおいて欠かせない存在へと変化していくはずです。CDPといったファーストパーティデータを統合できる仕組みも確立されているので、デジタルマーケティングにおいては不可欠な機能となっています。
また、展示会やセミナーなどで自社が入手したデータもファーストパーティデータの一種です。有効活用が可能なので、データを活用してマーケティングに活かしてみてください。
自社コンテンツを強化する
規制によってサードパーティーCookieが活用できなくなれば、自社で直接集客できる仕組みづくりが重要となります。自社で運営しているSNSやオウンドメディアがあれば強化をして集客に活かしていきましょう。
その際には、ターゲットにしているユーザーに向けて有益な情報や魅力的なコンテンツ作りが不可欠です。ユーザーが欲しい情報を提供することで、ネット広告に頼らずにユーザー自身で商品やサービスを見つけてくれるようになります。
口コミやインフルエンサーを活用する
広告以外の集客方法としては、口コミやインフルエンサーを活用する方法もおすすめです。ユーザーは、企業から発信する情報よりも、自分がフォローしている人物や知っているアカウントからの情報を重視する傾向があるため、ターゲットにしているユーザーに人気のあるインフルエンサーを活用すれば、興味を持ってもらうことにつながります。
また、口コミでは第三者の意見を知れるので商品やサービスの魅力を知るために役立ちます。自社の商品やサービスを利用してもらったユーザーにSNSに口コミを投稿してもらう取り組みを実施すれば、より多くの人の目に留まるので集客にも役立つはずです。
まとめ:リスクを理解した上で適切にトラッキングを活用しよう
トラッキングは、ユーザーの行動データを収集・分析することで、企業にとってはマーケティングの高度化や広告効果の最大化、ユーザーにとっては利便性の向上といった多くのメリットをもたらします。一方で、個人情報保護の観点からリスクも伴うため、技術の選定や運用方法には慎重な判断が求められます。規制の変化にも注意を払いながら、自社に最適な形での導入と活用を検討することが重要です。
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