STP分析とは?競合との差別化を実現するためにも基本を理解しよう
効果的なマーケティング戦略を練るためには、データ分析を行い、市場や顧客のニーズ、自社が置かれている状況などを把握することが大切です。マーケティング分析ではさまざまなフレームワークが使われていますが、その1つがSTP分析になります。
STP分析は、ターゲット市場を選ぶ際に使われるフレームワークです。活用するためには、基本的な知識ややり方などの理解を深める必要があります。そこで今回は、STP分析の基本や分析の進め方、失敗しないためのポイント、企業の成功事例などについて解説します。
STP分析とは
STP分析は、「市場細分化(Segmentation:セグメンテーション)」「ターゲット市場の選択(Targeting:ターゲティング)」「自社の立ち位置(Potisioning:ポジショニング)」の3要素からマーケティング戦略を策定するフレームワークです。市場を細分化し、その中で自社が狙うべき市場を選定し、その市場での自社の立ち位置を決めることで、効果的なマーケティング戦略を立てることができます。
新規事業の立ち上げや商品・サービスを訴求する前にSTP分析を行えば、利益を獲得しやすい市場を特定し、競争優位性の高い戦略を検討することが可能です。
4P分析との違い
4P分析は、「製品(Product)」「価格(Price)」「流通(Place)」「プロモーション(Promotion)」の4つの視点で分析し、マーケティング施策を検討していく手法です。
- どんな商品を提供するのか
- いくらで販売するのか
- どこで販売するのか
- どのように販売するのか
上記のプロセスを踏むことで、ターゲット層や立ち位置が決まり、効果的なマーケティング施策の計画を立案できます。この4Pのいずれか1つでも失敗してしまうと、ターゲット市場でのポジショニング争いに負ける可能性があります。
一方STP分析は、企業のターゲット市場とその市場での立ち位置を決める際に活用する手法です。4P分析は戦略を立案する段階で使われる手法となるため、STP分析はその前のプロセスで行う分析といえます。
SWOT分析との違い
SWOT分析は、「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の観点から組織の内部と外部の環境を分析し、課題や戦略を明確にするフレームワークです。4要素は、縦軸を内部要因と外部要因、横軸はポジティブ要因とネガティブ要因として分類して整理します。
内部要因は組織の努力次第でコントロールできる要素であり、強み(ポジティブ要因)と弱み(ネガティブ要因)が該当します。外部要因は自社でコントロールできない要因であり、機会(ポジティブ要因)と脅威(ネガティブ要因)が該当します。この4要素を分析することで、自社の強みや弱み、どんな機会や脅威があるか明確になり、これらの観点を踏まえたマーケティング戦略を検討することが可能です。
SWOT分析もSTP分析も戦略の策定に用いられますが、SWOT分析では内部環境と外部環境を考慮して、組織全体の戦略を立てる際に役立つ手法です。それに対して、STP分析は市場に着目して特定の戦略を立てる際に用いられるという違いがあります。
STP分析でわかること
マーケティング戦略を練る過程でSTP分析を行うことで、以下3つのことを把握できます。
- 市場の細分化が明確になる
- 顧客ニーズの理解が深まる
- 自社のポジショニングを明確にできる
それでは、具体的にSTP分析でわかることについてご紹介します。
市場の細分化が明確になる
STP分析によって市場の細分化が可能です。市場細分化とは、特定の基準に沿って市場を小さく区分することです。市場を細分化することで、参入するべき市場やターゲットを見つけやすくなり、販売活動の最適化を図れます。
現代は消費者のニーズや嗜好が多様化しており、顧客一人ひとりに合わせたアプローチが求められます。市場細分化をすると区分ごとの顧客群に合わせて商品・サービスの提供がしやすくなるため、競争力の強化が可能です。他にもプロモーション効果を向上させたり、社内リソースを効率よく分配したりしやすくなります。
顧客ニーズの理解が深まる
顧客ニーズを理解できることもSTP分析のメリットです。セグメンテーションの工程では、市場全体の顧客ニーズや属性に基づいて市場細分化を行います。さらに、自社の立ち位置を決めるポジショニングの工程では、顧客や自社、競合をより詳しく分析しなければなりません。
これらの工程を行う中で、ターゲット市場において顧客がなにを望んでいるのかが深く理解することが重要です。その結果、自社を取り巻くビジネス環境を把握したうえで、顧客ニーズを満たすさまざまな戦略を検討できるようになります。
自社のポジショニングを明確にできる
STP分析をすると、自社がターゲット市場でどのように位置づけられるのか明確になります。ポジショニングが明確になると、競合と差別化を図れるので競争優位性が高まります。特に競合が多い市場の場合、競合と差別化できないと顧客から選んでもらいにくくなります。競合が少ないブルーオーシャン市場でも、ビジネス規模を拡大するためには差別化は必要不可欠です。
STP分析では、自社や競合を分析し、立ち位置や強み・弱みを把握していきます。競合に勝る強みはなにか、どの立ち位置を取るべきかを理解することで、ターゲット層に対して効果的なプロモーションを実現することが可能です。
STP分析を実施するタイミングはいつ?
STP分析を実施するべきタイミングは、新規事業の展開を決めた時と市場になにかしらの変化が起きた時です。新規事業の展開では、ターゲット市場で優位性を確保できるかどうかが重要となってきます。そのため、STP分析を行い、狙うべきターゲット市場・客層を把握し、事業の準備を進めていくことが大切です。
また、市場は他社の新規参入、自社の成長、トレンドの変化などさまざまな要因で変動します。変動後も優位性を確保するためには、STP分析を行ってターゲット市場でのポジションを確立させていく必要があるのです。
STP分析は、現状の市場環境から得られた情報をもとに、ターゲット市場やポジションを確定します。そのため、マーケティング戦略を立てる工程では、SWOT分析やPETS分析、3C分析といったフレームワークで市場環境の分析を済ませた後に行いましょう。
STP分析の具体的な進め方
ここからは、STP分析をする際の流れを解説していきます。以下のやり方を参考にして、STP分析を進めてみてください。
1.市場をセグメントに分ける
まずは、市場を顧客企業の特徴やニーズなど、類似する項目ごとに細分化していきます。セグメンテーションとも呼ばれ、細分化することで狙うべき市場が定めやすくなります。以下の変数を活用することで細分化が可能です。
- ジオグラフィック変数(地理的変数)
- デモグラフィック変数(人口動態変数)
- サイコグラフィック変数(心理的変数)
- ビヘイビアル変数(行動変数)
変数の種類 | 分け方 | 具体例 |
ジオグラフィック変数 | 国や地域など、地理的要件で分ける | ・北海道在住 ・東京都に勤務 |
デモグラフィック変数 | 性別や年齢、職業など、人口動態で分ける | ・40代女性 ・30代で子どもが2人の世帯 ・年収500万円以上 |
サイコグラフィック変数 | 価値観や性格、嗜好性などの心理的要因で分ける | ・映画が趣味 ・喫煙者 |
ビヘイビアル変数 | 人の行動パターンで分ける | ・○○の商品を購入した経験あり ・資料請求をしたユーザー |
細分化した後には、「Rank(優先度)」「Realistic(有効性)」「Reach(到達可能性)」「Response(測定可能性)」からなる4Rの原則に基づき、各セグメントの有効性を分析します。
2.ターゲット市場を選定する
細分化したセグメントを評価して、狙うべき市場を選定していきます。その際、セグメントの構造や規模も考慮しつつ、優位性のある市場を選ぶことも大切。ターゲティングでは、以下のマーケティング手法を用いて判断していきます。
【集中型マーケティング】
特定のセグメントに絞ってマーケティングを行う手法です。
市場や顧客層を絞り込んで最適な製品やサービスを提供するため、企業は限られたリソースを効果的に活用してアプローチできます。
限られた資金での戦略に向いているので、中小企業や新興企業などに有効な手法です。
【差別型マーケティング】
細分化されたそれぞれのセグメントに対して、ニーズに見合う製品やサービスを提供する手法です。複数の市場を対象にして、複数の製品を開発して提供していく方法となるので、幅広い市場をカバーできる特徴があります。
【無差別型マーケティング】
細分化した市場に関係なく、さまざまなターゲットに対して同じ製品やサービスを提供するのが無差別型のマーケティング手法です。
類似した嗜好のある顧客に対してや、資金力のある大企業に適した方法だといえます。
3.競合のポジショニングを分析する
次にSTP分析におけるPの部分を指すポジショニングについて解説していきます。ポジショニングでは、2軸のマトリクス図を活用してポジショニングマップを作成し、自社の立ち位置を見極めます。そのためにも、まずは競合他社のポジショニングを分析します。
ポジショニングマップでは見込み客がターゲット市場において製品の購入やサービスの利用をするにあたっての要因を挙げ、重要な2つを縦軸と横軸に落とし込みます。例えば、「品質と価格」「店舗数と販売チャネル」などです。そして、ターゲット市場に存在する競合の製品やサービスをマッピングしていきます。
4.自社の強みを活かしたポジショニングを決める
競合をポジショニングしたら、自社の立ち位置を決めていきます。競合がいない空いているポジションがあれば狙い目だといえるでしょう。
例えば、市場内に大手企業が存在している場合、大手企業がアプローチをしていない場所を狙えば活路を見出せ、注目を集める製品を生み出せるかもしれません。市場内に同じような製品やサービスが乱立しているなら、自社の製品やサービスに関心を持ってもらうためにも、競合と比較してどういった違いがあるのか差別化する必要があります。
5.ターゲットに合わせたマーケティング戦略を策定する
STP分析によって得た要素を踏まえてターゲットに合わせたマーケティング戦略を策定していきます。その際には、最初に設定した目標やゴールを見据えることが重要です。目標を果たせる戦略であるか、ゴールを達成する見込みがあるのか冷静に判断してください。
6.施策の実施と効果検証を行う
マーケティング戦略を策定した後は実行していきます。しかし、実行したからといって終わりではありません。市場やニーズは日々変化していくため、戦略の見直しを図らなければ思うような結果を出せない可能性もあります。そのため、効果検証を実施して柔軟に戦略を見直していきましょう。
STP分析を失敗しないためのポイント
STP分析は優れた分析方法ですが、取り組むうえでは注意すべき点もあります。ここでは、STP分析を失敗しないためのポイントを解説していきます。
市場セグメントを細かくしすぎない
市場規模を細分化すれば、競合とは異なるターゲットを設定しやすくなる利点があります。しかし、セグメントを絞り込みすぎてしまうとターゲティングにつなげにくくなるので注意が必要です。その結果、適切な分析がしにくくなれば思うような効果が得られなくなってしまいます。
前述した4Rを意識して、適切なセグメントを心掛けましょう。
データに基づいたターゲティングを行う
良い製品を生み出したとしても、アプローチする場所を間違えてしまえば、誰の心にも響かない製品になってしまいます。分析を成功に導くためにはデータに基づいた客観的なターゲティングが不可欠です。
- 顧客アンケート
- 市場調査データ
- 販売実績
- Webサイトのアクセス解析 など
さまざまなデータソースを活用して分析をしていきましょう。
顧客のニーズやトレンドを定期的に見直す
市場環境や顧客のニーズは常に変化していきます。そのため、以前の分析結果が現在の状況に相応しくない可能性もあります。例えば、新たな競合が参入してくるケースが考えられます。より良い製品を生み出していた場合は、自社の製品が埋もれてしまう要因です。
また、技術革新によって市場のダイナミクスが変化するケースも考えられます。消費者のライフスタイルの変化や社会経済の変化も見直しが必要となる要因となるので、顧客ニーズやトレンドは定期的に見直しを行いましょう。最新のデータを集めて前回の分析結果を比較すれば、変化の兆候を見つけられるはずです。
他のマーケティングフレームワークと組み合わせる
STP分析のみに依存しないこともポイントです。STP分析で自社にとって最適な市場が見つかっても、魅力が伝わらなければ成果を出せません。そのためにも、他のマーケティングフレームワークとの組み合わせを実施してみてください。
SWOT分析やPEST分析、3C分析や4C分析なども活用して、より効果的なマーケティング戦略を構築していきましょう。
3C分析については以下の記事でも解説していますので、参考にしてみてください。
STP分析を活用したマーケティング成功事例5選
最後に、STP分析を活用してマーケティングを成功させた企業事例をご紹介していきます。
スターバックス
スターバックスは、STP分析によって立ち位置を明確に確立しています。セグメンテーションでは徹底的に細分化し、ユーザー層を10代後半から70代まで年齢別に分ける他、男女別にも細分化を行い、職業や経済状況、地域などで分類もしています。
ターゲティングにおいては、店舗拡大のために土地のニーズを調査して立地を選定しています。また、営業時間でターゲティングを細分化しています。例えば、早朝は出勤前のオフィスワーカーや高齢者、昼間は主婦やノマドワーカー、夕方は学生や帰宅する前のオフィスワーカー、休日はカップルや買い物中の女性、家族連れなどです。
そしてポジショニングでは、会社や自宅の次にリラックスできる空間として「第3の場所」として位置し、質の高い接客やオリジナルグッズを強みとして打ち出し、競合との差別化を図っています。
ユニクロ
STP分析で自社のコンセプトを確立したのがユニクロです。年齢や性別といったデモグラフィック変数を用いずに顧客ニーズから市場を細分化して、ニーズに見合う製品の企画や販売をしている特徴があります。トレンドに捉われない「LifeWear」をテーマにした、シンプルで実用的な普段着に着目し、購入しやすい価格で提供している点で差別化を図っています。
折り込み広告やテレビCMなど、さまざまな媒体を使用して効果的なプロモーションも実施しています。オンライン需要が高まった現代においても対応できる販売形態を早い段階で取り入れているのも特徴です。
マクドナルド
マクドナルドの場合、価格帯は低価格~中価格帯、品質では作り立ての素早い提供や一定の品質基準、サービス形態においては店内飲食の他にデリバリーやテイクアウト、ドライブスルーといったようにセグメントしています。
ターゲティングでは、主要ターゲットとして30代~40代のファミリー層を位置づけています。その結果、コロナ禍でもデリバリーやテイクアウト、ドライブスルーなどを打ち出すことでファミリー層を取り込み、注文単価の上昇に成功しています。
ポジショニングの側面では、提供スピードの速さだけではなく、モバイルオーダーやドライブスルー、デリバリーを活用することで非接触型サービスで独自の地位を築いています。
SATORI
SATORIでは、製造業やITといった業種別にセグメントを行い、提供サービスにマッチしそうな業種を定義しています。ターゲティングでは、人手が多くない状況の中で業務改善を目指している企業やマーケティング施策を行う企業、自社サービスを拡大した企業など、顧客の規模やニーズからターゲットを絞り込んでいるのが特徴です。
そして、日本企業に最適化した国産のマーケティングオートメーションツールを提供し、初心者でも使いやすい機能や顧客育成・獲得に強みを持つポジショニングで、競合他社との差別化を図っています。
すき家
牛丼チェーンとして広く知られているすき家のSTP分析では、外食・中食・内食のセグメントで細分化を行うことで、外食と中食で市場全体を狙う戦略を立てています。ターゲティングにおいては、メイン客層でもある男性1人の顧客に頼らず、女性や家族連れ、グループ客などにも狙いを定めてターゲット層の幅を広げたのです。
牛丼チェーンといえば、低価格な料理をスピーディーに提供してくれるお店というポジションでした。しかし、すき家ではお子さまメニューやスイーツなど、豊富なメニュー展開やテーブル席の導入によって、女性や家族連れでも入りやすい牛丼チェーンというポジションを築き上げています。
まとめ:STP分析でターゲットに最適なアプローチをしよう
STP分析は、顧客のニーズを把握し、適切なターゲットを見極め、自社の立ち位置を明確にすることでマーケティングの効果を高める手法です。本記事では、基本的なフレームワークに加え、ユニクロやスターバックスといった企業の取り組みも交えながら、STP分析の活用法を具体的に紹介しました。
変化の早い市場環境では、常に最適なタイミングでSTP分析を見直すことが重要です。その結果、現場で実行可能なマーケティング戦略を立てやすくなり、競合との差別化にもつながります。
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