ROIとは?ROASとの違いやROIを高めるためのポイントも解説
企業が経営の意思決定を行う際の重要な指標の一つに、「ROI」があります。ROIは、資本投資によって得られた利益を評価する指標です。この指標を活用することで、効果的な資本投資が可能となります。
今回は、ROIの基本知識やROASとの違い、活用するメリット・デメリット、ROIを高めるポイントなどについて解説します。資本投資を成功させ、ビジネスを成長させたい方はぜひ参考にしてください。
ROIとは?
ROIとは、「Return on Investment」の略で、投資収益率や投資利益率とも呼ばれる指標です。具体的には、資本投資によって獲得した利益の割合を指し、ROIの数値が高いほど高い費用対効果があると判断できます。
どんなに費用をかけても、それを上回る利益が出なければビジネスは成功しません。そのため、ビジネス戦略やプロジェクトを成功させるためには、ROIを活用して、効果的な意思決定を行うことが求められます。
ROIが重視されている理由
ROIが重視されているのは、資本投資の費用対効果やコストパフォーマンスを数値ベースで可視化できるためです。ROIを正確に把握していれば、どこに投資するのが適しているのか判断しやすくなります。しかし、ROIの測定が適切に計測・管理できていないと、効果の薄い戦略・施策に費用を費やすことになり、経営状況を悪化させるリスクがあります。
近年はインターネットの普及によって、マーケティングチャネルも多様化かつ複雑化しました。複数のチャネルに対して最適な予算配分をするためには、ROIの把握が欠かせません。また、ITツールの普及もあり、ROIを含めてさまざまなデータの収集・分析・可視化が容易になりました。あらゆるデータの可視化によって、数値ベースでの経営判断の重要度が高まっています。
さらに、現在はDX推進によってIT投資も重要度が高まっているため、その際にもROIが役に立ちます。ただし、長期的に利益を獲得するための施策・投資に対する評価には向いていないため、特徴を理解し、他の指標も組み合わせて経営判断をしていくことが大切です。
ROIの計算方法
ROIは、「利益÷投資額×100」の計算式で計算可能です。具体例として、2つの商品を販売するケースで投資効果を比較してみます。
【A】
売上:1,200万円
売上原価:200万円
販管費:40万円
投資額:600万円
【B】
売上:900万円
売上原価:150万円
販管費:40万円
投資額:300万円
AのROI=(1,200万円-200万円-40万円-600万円)÷600万円×100=60%
BのROI=(900万円-150万円-40万円-300万円)÷300万円×100=136.6%
シミュレーションした結果、Aの商品のROIは60%なのに対して、Bの商品は136.6%となりました。Bのほうが売上は低くなっていますが、ROIを比較するとBのほうが投資効果は高いことがわかるでしょう。
ROIの目安
ROIに明確な基準はありませんが、0%を下回らないことが大切です。ROIの損益分岐点は0%なので、それ以下となると投資額に対して赤字になっている状態を指します。反対に0%以上であれば、投資額に対して利益が出ている状態です。
マーケティングの施策やツールに投資する場合、0%以下にならないことが大事ですが、100%以上を目指すのが1つの目安です。ROIが100%以上であれば、投資額に対して100%以上の利益が出ていることを意味します。つまり、100%以下だと赤字ではないものの、投資額に対して少なからず損失が出ている状態です。
100%未満の状態が続けば、企業の資産が少しずつ減っていく可能性があります。長期的に見ると財政状況を圧迫させるリスクがあるので、100%以上を目指すことが理想的です。
ROIとROASの違いとは?
マーケティングでよく使われる指標の1つに、ROASがあります。ROASも投資によって得られた効果を把握する指標であるためROIと混同されがちですが、ベースや対象が異なります。
ROASは、「Return On Advertising Spend」の略で、広告の投資額に対してどれだけの売上を回収できたのかを意味する指標です。つまり広告運用によって、その投資額以上の売上が出ているのかを測る際に使われます。
それに対してROIは、投資した資本に対して利益ベースで成果を測定する指標です。資本投資によって利益が出ているかどうかを判断できるという点がROASとの違いになります。どちらの指標も広告のパフォーマンスを測れますが、広告に対する費用対効果を測る際はROASを活用するのがよいでしょう。
ROASの計算方法
ROASは、「売上÷広告費×100」で計算することが可能です。例えば、売上高200万円に対して広告費が60万円かかったと想定した場合の計算は以下のとおりです。
ROAS=(200万円÷60万円)×100%=333.3%
上記のケースでは、60万円の広告費に対して333.3%の売上を獲得したという結果になります。ROIと同じく数値が高いほど、広告費を上回る売上が出ていることを意味します。ただし、ROASは売上ベースで計算されるため、どのくらいの利益率を示すものではないので、最終的な利益は別に計算しなければなりません。
ROASの目安
ROASの目安は、100%以上です。100%を超えていれば、投資した広告費の元を取れると考えられます。ただし、実際に広告運用の成果を評価する際は、粗利を考慮しなければなりません。
粗利は、売上から商品・サービスの原価を差し引いたものです。売上に粗利を差し引くことで、投入した広告費に対して本当に得られた利益を把握できます。そのため、ROASが100%以上あっても、粗利を考慮すると総合的な収支がプラマイゼロやゼロとなる可能性があるのです。
このことから、単純にROASの高さだけで評価するのは危険です。どのラインまでなら赤字にならないのか、下限のROASを設定した上で、どのくらいの利益を獲得したいのか目標のROASを設定するのがよいでしょう。
下限のROASは、「売上高÷粗利額×100」で計算可能です。例えば、1つ5,000円の商品に対して広告費が2,000円かかる場合は「5,000円÷2,000円×100= 250%」となるので、ROASが250%以下になると赤字になってしまいます。このことを踏まえて、目標値を設定しましょう。
ROIと合わせて理解しておくべきその他の指標
マーケティング戦略や経営戦略を策定するにあたって、ROIやROAS以外にも理解しておきたい指標がたくさんあります。ここで、合わせて理解しておきたいその他の指標をチェックしましょう。
CPA
CPAは、「Cost Per Action」の略で、顧客獲得単価を意味します。CPAが示すものは、1件のコンバージョンにかかった広告費です。この指標を把握することで、広告の効果の評価や収益最大化のために広告予算を最適化できます。
CPAは「広告費÷コンバージョン数」で計算することが可能です。1件のCVを獲得にかかった広告費を評価する指標であるため、広告運用の総合的な評価をするためにはROIやROASなどの他の指標を組み合わせて分析しましょう。
ROE
ROEは、「Return On Equity」の略で、意味は自己資本利益率です。株主の出資額に対して、どれだけの当期純利益を獲得したのかを把握するための指標になります。「当期純利益÷自己資本×100」で計算できます。
株主や投資家が投資価値のある企業なのか判断するための指標であるため、企業の収益性を知りたいステークホルダーが活用するケースが多いです。それに対してROIは企業側が特定の施策を評価するために用いることが大きな違いになります。
ROIC
ROICは、「Return On Invested Capital」の略で、投下資本利益率を示します。具体的には、企業が調達した資金に対して、どれだけの利益を獲得したのか測るための指標です。企業全体の収益性を示すので、調達した資金を効果的に活用できているのか把握したい時に活用されます。
ROICは「{営業利益×(1-実効税率)}÷投下資本×100」で計算することが可能です。計算で用いる実効税率は、法人税や法人住民税、法人事業税など企業が負担する税率のことです。
ROA
ROAは(Return On Assets)の略で、総資産利益率を意味します。企業の総資産に対して、収益性の高さを把握できる指標です。企業全体の経営効率を理解するために用いられます。「当期純利益÷総資産×100」で計算することが可能です。
総資産は自己資本だけではなく、借入金や社債などを含んでいます。少ない総資産で多くの利益を上げている状態であれば、ROAは高く、収益性の高い事業を展開できていると判断できます。反対に純資産が多いとROAが低くなり、事業の収益性は低いということです。
ROMI
ROMIは、「Return on Marketing Investment」の略で、マーケティング投資回収率を意味します。特定のマーケティング活動への投資の効果を測る指標です。「(施策による利益-施策にかかったコスト)÷施策にかかったコスト×100」で計算できます。
利益からROMIを計算しますが、ここで使う利益は企業全体の売上ではなく、特定のマーケティング施策で得たものから算出する点に注意してください。ROMIを求めることで、施策を実施したら顧客や成約数はどれくらい獲得できたかを数値で認識できます。
ROIを活用するメリット
ROIを活用することには、いくつかメリットがあります。そのメリットは以下のとおりです。
投資収益性を可視化できる
ROIは、利益をベースに数値を測定するので、施策に対する投資の収益性を可視化できます。利益額の大小だけで、投資効果があるのか把握することは困難です。しかし、投資の利益がどれくらい出たか数値でわかれば、施策の効果があったかどうかを判断しやすくなります。
ROIが低いと投資効果が薄い施策と言えるので、事業モデルや収益の構造の見直しが必要だと判断することが可能です。また、投資したコストと利益を時系列でまとめれば、どの時期に行った施策で投資効果が高まっているのか、または落ちているのか確認できれば、施策の方向性を間違えていないかがわかります。
事業の効果測定・比較検討が容易になる
ROIによって事業の効果測定や比較検討がしやすくなることもメリットです。ROIは事業・施策ごとに測るので、規模や性質が異なっていても、投資の効果を可視化できます。
例えば、既存の商品・サービスのROIと新商品・サービスのROIを求めて比較すれば、投資効果の優れたほうに投資金額を増やすといった判断が可能です。商品のラインナップを見直す際にも、どの商品を残し、削るか判断する際にROIが役に立ちます。
業務改善の意思決定が迅速化できる
業務改善の意思決定を迅速化できることもROIのメリットです。ROIは、特定の事業・施策における生産性を可視化する指標にもなります。ROIは限られた労働時間でどれだけ利益を出せたのかという、労務コストに対する利益とも捉えられます。
つまり、ROIが高いと単位時間あたりの利益が高く、効率よく業務を遂行できていると判断できるでしょう。反対にROIが低いと業務が非効率になっていて、生産性が低迷していると考えられます。そのため、ROIは業務改善の必要性を判断する上でも役立つ指標です。
ROIを活用するデメリット
ROIは万能な指標ではなく欠点もあるので、評価対象によっては別の指標が適していることがあります。ここで、ROIを活用するデメリットをチェックしましょう。
短期的な視点に偏りやすい
ROIは、長期的な視点での評価が不向きであることがデメリットです。あくまでも投資に対する利益の割合を測る指標であり、計測時点の数値から計算されるため、短期的な視点に偏ってしまいます。
例えば、中長期で利益を増やしていく施策の場合、現状ROIが低いために効果の薄い施策であると間違った判断をしてしまう恐れがあります。ROIだけで、事業の今後の成長や成果を評価することは困難であるため、他の指標を組み合わせて判断していくことが大切です。
間接的な効果を評価しづらい
ROIは間接的な効果を評価しにくいこともデメリットです。例えば、投資によって得られる効果には、ブランド認知度や顧客満足度などの間接的な効果が挙げられます。
ROIは事業や施策で得た利益に基づいて算出されるため、投資による直接的な利益に対する効果を測ることは可能です。しかし、直接的な利益ではないブランド認知度や顧客満足度、社会的貢献などの効果までは評価できません。
間接的な効果は、ROIが低い施策でも継続的な実施によって効果を得られている可能性があります。ROIのみで間接的な効果の有無を判断しないようにしましょう。
ROIを高めるためのポイント
ROIを高めるためにはさまざまな工夫が求められます。ここで、ROIを高めるためのポイントをチェックしていきましょう。
売上の向上を図る
ROIを高めるためには、売上の向上を図ることが大切です。具体的には、新規顧客の獲得・成約率やリピート率の向上・顧客単価の向上・商品単価の見直し・販路拡大などが必要になります。
ROIを求める際には売上原価も考慮する必要があるため、費用対効果に優れた施策を選ぶことがポイントです。例えば、顧客単価の向上にはアップセルやクロスセルといった施策が適しています。これらの施策を講じるためには、商品のバリエーションを増やしたり、セット購入の提案を行ったりする必要があります。
コストを削減する
売上の向上と同時にコストの削減もROIの向上に欠かせません。ROIの計算では売上原価も考慮されるため、コストを抑えられると数値が上がります。コストの削減には、広告費やエネルギーコストの見直し、生産ラインの効率改善、過剰在庫の削減といった取り組みが効果的です。
まずは、データを集めて削減できるコストを特定するところから始めましょう。削減する部分を見誤ると逆にROIが低下する可能性があるので、むやみにコストカットを図らないように注意してください。
ターゲティングを最適化する
ROIを向上させるためにも、ターゲティングの最適化を図りましょう。広告の効果や売上を向上させるためには、適切なターゲットにアプローチすることが大切です。顧客データや市場データを分析し、ターゲットの年齢や性別、趣味、購買履歴などの特性を把握することで、顧客ニーズや行動パターンがわかります。
これらの情報からターゲットの心に響く広告・プロモーションを打ち出すことで、反応率や購買率が高まり、結果的にROIの数値も高まります。広告の効果や売上が上がらない時は、ターゲティングが最適化されていない可能性があるので、見直しましょう。
MAツールを活用する
マーケティングの業務を自動化できるMAツールの活用もおすすめです。MAツールでは、リードの獲得や育成、販売促進などの業務を自動化できます。
MAツールを使えば一部業務を自動かつ継続的に実行できるので、業務の効率化につながり、結果的に生産性の向上につながります。生産性が向上すれば事業の利益も上がるので、ROIの向上につながるでしょう。
また、事業・施策を継続的に展開する中で得た顧客情報を分析すれば、施策の改善や新しい施策の策定に活用することが可能です。ツールによって効率よく施策の結果の収集・分析を行い、最適化を図ることもROIの向上につながります。
まとめ:ROIを算出し、事業の投資利益率を把握しよう
ROIは、投資の成果を評価する重要な指標です。本記事では、ROIの計算方法や目安、ROASとの違い、ROIを高めるためのポイントについて解説しました。ROIを活用することで、投資の効果を可視化し、適切な経営判断が可能になります。ただし、短期的な視点に偏らず、他の指標と併用しながら評価することが大切です。
また、ROIを向上させるには、ターゲティングの最適化やマーケティング戦略の強化が欠かせません。アイリッジの「ビジネスプロデュース支援」では、企業の課題に応じた戦略立案から、デジタルとリアルを統合した施策の企画・実行までを一貫してサポートします。アプリ開発・運用をはじめ、CRMマーケティングやブランディング支援など、多岐にわたるソリューションを提供し、事業成長を加速させます。ROIの向上を目指す企業の皆様は、ぜひご相談ください。
